動脈硬化や脳梗塞・心筋梗塞といった血管の障害を起こす原因の一つに「糖尿病」があります。
日本に2000万人以上もいると言われている、糖尿病患者とその予備軍は、同時に血管障害にもなりやすい人たちなのです。
生活習慣病検査でも糖尿病の検診は、かなり高い精度で行われますので「血糖値が高い」と告げられたらすぐにでも生活改善を始めることをおすすめします。
糖尿病と血管の関係について詳しい知識をもっておきましょう。
糖尿病ってどんな病気?
人の体を動かすためには、「酸素とエネルギー」が必要です。
食事から摂った栄養素を体の細胞の中に取り込みエネルギーにするのが「インスリン」という物質で、膵臓から分泌されています。
体の中に糖(カロリー)がたくさんあると、膵臓からたくさんのインスリンが分泌されます。
しかし、過食を続けて体の中に糖がたくさんある状態を長期間続けると、分解のために膵臓は稼働を続けしだいに疲労して弱ってしまいます。
最終的に疲れ切った膵臓は、インスリンの産生と分泌ができなくなってしまうのです。
インスリンがうまく分泌されなければ、血糖値がコントロールできなくなってしまいます。
そうすると、血液中には処理できなくなった糖が慢性的にたくさんある状態になります。
これが糖尿病のメカニズムです。
糖尿病にはいくつかの種類があり、先天性のものも存在しますが、日本人の糖尿病の9割以上は生活習慣が原因となっているものです。
また、糖尿病は治療が難しいため、早期の予防が必要となります。
糖尿病になりやすい生活
糖尿病になる原因の多くは「生活習慣の悪化」です。
まずは食事の摂り過ぎによるカロリーオーバーや肥満、そして運動不足が原因の多くを占めています。
また最近では「喫煙」によっても糖尿病にかかりやすくなることが分かっています。
毎日の生活習慣のあらゆる要素が、糖尿病発症の原因と言えるのです。
血管障害を引き起こす原因は動脈硬化
糖尿病が血管障害を引き起こすことは統計でも明らかになっています。
脳梗塞や心筋梗塞といった重篤な血管の病気になる危険性は、糖尿病患者はそうでない人の2倍から3倍以上とも言われているのです。
脳梗塞にかかってしまった人の約50%程度、また心筋梗塞にかかった人の3分の1が糖尿病患者といいますから、その因果関係は確実なものだと思っていいでしょう。
糖尿病患者が血管の病気にかかりやすい原因にはいくつかの理由がありますが、そこには「動脈硬化」が深く関係しています。
動脈硬化と糖尿病
動脈硬化は、血管の内部にプラークと呼ばれる堆積物が形成されて起きる血管障害です。
血管壁の汚れが血流の邪魔をして脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしたり、血管にできた瘤(動脈瘤)が破裂したりすると死の危険にさらされることになります。
動脈硬化は血液の濃度が高くなり、血流が悪くなることで起こりやすくなりますから、血糖値の高い糖尿病患者は動脈硬化の原因をたくさん抱えることになるのです。
糖尿病は血流が悪化する
血糖値が高いと赤血球が固くなったり、血小板が固まりやすくなることで、血液の濃度が高まって血の流れが悪くなります。
血流が遅いと血管壁に脂肪や老廃物が溜まりやすく、血管が汚れるのです。
運動をすると心拍数と血圧が高まることで、血液が勢い良く流れて血管壁を掃除してくれますが、血流が遅い人は血管壁に汚れが蓄積しやすいのです。
糖尿病による”血流の悪化”こそが、動脈硬化の大きな原因だと言えます。
糖がプラークを作る
動脈硬化の「プラーク」はコレステロールや脂肪の混合物ですが、「血液中の糖」と結びつくことで出来やすくなるという性質をしています。
健康な人の血中内の糖の量であれば問題はありませんが、糖尿病になり血液中の糖が多くなり過ぎると、プラークが何倍もできやすくなります。
血管壁の汚れ(プラーク)の形成そのものにも、糖尿病の高血糖が関係しているのです。
高血糖が血管壁を傷つける
糖尿病や糖尿病予備軍の人は、健康な人よりも高血糖になる時間がながくなります。
血糖を処理するインスリンの分泌が弱いことがその理由です。
また、糖には細胞を「酸化させる」性質があります。
糖の持つ強い酸性が血管壁を傷つけてしまうのです。
血管に損傷があると、それを修復するために白血球が活動して血管を修復しようとしますが、修復された血管は白血球の残骸が繊維状に残り、硬く硬化してしまいます。
健康な血管は柔軟性があり収縮しますが、硬くなってしまうと血流が悪くなったりそこにプラークが堆積しやすくなるのです。
糖尿病が原因の合併症
糖尿病はたくさんの合併症を起こしやすい状態だと言えます。
ここまで解説してきた血管への悪影響が、さまざまな症状を招くことになるのです。
糖尿病にかかった患者が起こしやすい合併症を「3大合併症」と呼び腎症・網膜症・神経障害がそれに該当します。
また3大合併症は毛細血管に関する疾患ですが、太い動脈に関係する「脳卒中」や「心筋梗塞」といった死亡率の高い合併症もあります。
合併症1:腎症
「腎症」とは腎臓の機能が低下してしまう症状のことで、糖尿病の影響によって発症しやすくなります。
糖尿病が進行すると、血管が硬くなったり血流が悪くなることで、毛細血管に血液が流れにくくなって死滅してしまうこともあります。
そして腎臓には細い無数の毛細血管がありますので、高血糖が続くことで腎組織が破壊されていくのです。
腎臓は細小血管が球状になった「糸球体」という組織で構成されています。
糸球体は、血液の中にある老廃物や毒素をろ過するフィルターの役割を持っていて、これは生命の維持に関わる機能なのです。
腎症が起きると、腎臓のろ過機能が低下してタンパク質が尿に流れだす「タンパク尿」の症状が表れます。
合併症2:網膜症
「網膜症」は、糖尿病によって目に張り巡らされた毛細血管の状態が悪くなったり、死滅することで起きる症状です。
視力を司る部分に対して毛細血管から必要な酸素と栄養素が運ばれなくなることで、眼球内細胞の機能が低下するのです。
初期症状としては「目のかすみ」が起こりますが、長期間糖尿病が続くことで、最悪の場合には”失明”してしまうこともあります。
合併症3:神経障害
「神経障害」も糖尿病の合併症の代表的なものです。
脳から全身につながる神経・末梢神経は、私たちが自分の意思で体を動かすための伝達器官です。
糖尿病になると、末梢神経の中に不純物が滞留して動きを悪くしたり、神経に栄養を与える血液の流れが悪くなります。
この状態になると、自分が思っている意思の伝達が全身に行き渡りにくくなり、足や手が麻痺したり、しびれを感じたりするのです。
合併症4:脳卒中
糖尿病になると「脳卒中」のリスクが格段に上がってしまいます。
脳卒中の中でも「脳梗塞」を発症しやすいのが糖尿病の特徴です。
糖尿病によって血管が汚れ、脳内の毛細血管が詰まるとその部位の脳機能の動きが悪くなったり、最悪のケースでは壊死してしまうこともあります。
脳の一部が壊死すると、言語障害や手足の麻痺・しびれ・ものが二重に見えたりする症状が表れます。
慢性的に進行する脳梗塞もあり、忘れっぽくなったり頭重があるなどの症状がある時には、早急に病院で診てもらうことが大切です。
合併症5:心筋梗塞
「心筋梗塞」は、心臓への栄養補給をする太い動脈、冠動脈の血管壁が汚れて詰まる疾患です。
致死率も高い心筋梗塞は、糖尿病の合併症の中でも特に注意をしたい疾患の一つです。
心筋梗塞の怖いところは、症状が急激に現れたとしても胸が締め付けられるような曖昧ものしかないということです。
そのまま心筋梗塞だと気づかずに取り返しのつかない結果を招くことも少なくありません。
これら合併症の存在こそが、糖尿病の怖さの本質だと言えるでしょう。
まとめ
経緯の違う進み方で血管に対して障害をもたらす糖尿病は、高血圧と同じように日本人がかかりやすい病気の一つだと言われています。
ただし、健康診断さえ定期的に行っていれば、発見しやすい病気でもあります。
その他の血管障害と同様に、生活習慣の乱れによって発症し、軽度ならばセルフケアでも完治することができるということも覚えておくと良いでしょう。
もちろん、糖尿病にならないために普段から予防できることはしておきましょう。
詳しい予防方法はインターネットを利用すればたくさん見つかります。
特に年齢が高くなると発症リスクが高まりますので、中年期以降の方は生活習慣を見直すことが大切です。