「エコノミークラス症候群」は、飛行機のエコノミークラスのような狭い空間でじっとしていることで起きる”血管”にまつわる疾患です。
進行の状態によっては致死率も高くなるこの疾患は、早期の発見と対処が大切です。
エコノミー症候群は自覚症状が少なく、気づいたときには手遅れになるケースもめずらしくありません。
発症しやすい環境に身を置く前に予防をしておくことが重要なのです。
エコノミー症候群は発見が難しい疾患
エコノミークラス症候群は、「血管障害」の一つです。
飛行機の中(とくに狭いエコノミークラス)や術後の入院時など、長時間身動きが取れないような環境下で起こりやすい性質があります。
片方の膝の裏などに違和感を感じたとき、体内では血液の塊(血栓)が生まれ血管を詰まらせてしまうのです。
エコノミー症候群の初期段階では、「静脈」で血液が滞留し、その多くは足の部分で起こります。
飛行機に乗られる方だけではなく、大きな手術のあとに入院された方や、なんらかの理由で車中泊をされるといった「極度の運動不足」になる状態で、エコノミークラス症候群は発症率を高めてしまうのです。
このエコノミークラス症候群が悪化しやすい理由は「発見が難しい」からです。
体の中ではどんどん病気の原因が進行しているのにも関わらず、ほとんど自覚できるような症状を感じないのです。
また、この疾患の性質や怖さをあまり知られていないことも、発見が遅れてしまう要因として考えられます。
予防しないとどうなる?
エコノミークラス症候群を早い段階で予防しないと、最悪の場合には”死に至る”ようなケースもめずらしくはありません。
初期段階の血液の塊ができている状態では、エコノミークラス症候群は「深部静脈血栓症」という病名で呼ばれます。
その状態を予防せず、長時間放置してしまうと血栓が血液に乗って流れ出し、肺の動脈に行き着いて動脈を詰まらせてしまうのです。
この進行した場合の病名を「肺塞栓」と呼び、病気としてのステージは格段に上がり危険な状態に陥ります。
同じく動脈が詰まる病気に心筋梗塞や脳梗塞といった、非常に危険性の高いものがありますが、肺塞栓も同レベルの疾患だと捉えていいでしょう。
ただし、心筋梗塞や脳梗塞は危険な状態から立ち直ったとしても後遺症が残るケースが多いのですが、肺塞栓の場合は完治できる可能性が高いと言われています。
動けない場所での予防
致死率が高く、また発見も難しいエコノミー症候群は「予防」を心がけることが何より大切です。
悪くなってからでは治療も困難になるので、初期段階の深部静脈血栓症を起こさないようにしなくてはなりません。
飛行機のエコノミークラスや車内のような動けない場所にいることを避けられない状態には、次のような予防策を実践しましょう。
水分をしっかりと摂取する
エコノミークラス症候群は、血流悪化が背景にあります。
このとき、持病や体調のかげんで血液がドロドロになり粘り気のある状態は危険です。
血液がドロドロの状態では、より血液が固まりやすく血栓もできやすくなります。
また、飛行機の中や車内のような乾燥しやすい環境では、体の水分が失われてさらに血液の粘度が上がってしまうのです。
血液をサラサラな状態に戻してエコノミー症候群を予防するためには「水分補給」が基本です。
ただし、水分摂取の方法にも注意点があります。
アルコールやカフェインなどは「水分として換算」してはいけません。
アルコールやカフェインには利尿作用があり、体内水分を奪う性質があるので脱水症状を起こしやすくなります。
ミネラルウォーターや経口補水液、あるいはカフェインを含まない飲み物で水分を補給しましょう。
小さく足を動かす
人体の血流は、心臓のポンプ作用によって全身に血液を循環させ、その血流を心臓にフィードバックさせるためには、筋肉の補助が必要です。
とくに足には全筋肉の6割以上の筋肉が集中しています。
座った状態を長時間続けると、下半身は固定されて足の筋肉がストップし、血流が悪くなるのです。
また、血液も”重力”の影響を受けるために、下半身に血液が溜まりやすい構造をしていますから、どうしても足の筋肉の動きは大切になってくるのです。
座って動かない状態が長く続くとき、小さくてもいいので意識的に足を動かすと、筋肉が振動して血流を高めることができます。
以下のような運動をしてみましょう。
つま先拍手
座った状態のまま両方のかかとを閉じます。
そのままの状態で扇を閉じるようにつま先同士で拍手し、トントンとリズミカルに続けます。
このとき足の動きにつられてふくらはぎと太ももが「内旋運動」と「外旋運動」を繰り返すのです。
足先の動きは非常に小さいのですが、下半身の筋肉を静かに目立たず大きく動かして血流を高める予防効果があります。
つまさき足踏み
次にその場で足踏みをする運動です。
まずかかとを地面につけてつま先を持ち上げます。
次につま先を地面につけて、かかとを浮かします。
昔あった足踏みミシンの板を操作するような感じです。
この運動は圧迫され続けるお尻の部分にも動きを与えられ、血流を高める効果があります。
これらの運動は、術後ベッドに寝ることを強いられるような場合にもできる予防法で、飛行機のエコノミークラスのような、横に人がいるときにでもできる小さな動きです。
マッサージをする
体の血流を意識的に高めるためには、マッサージが効果的です。
足の血管の性質を利用し、ピンポイントで血流に作用させます。
ふくらはぎマッサージ
ふくらはぎの部分はむくみが出やすいことが知られていますが、これも血液が滞留しやすい場所であることが理由です。
ふくらはぎの筋肉を手で下から上へしごくようにマッサージすると、強制的に血液を押し流すことができるのです。
タオルが使える状態ならば、両手でタオルを持ってふくらはぎに沿って下から上に擦り上げるようにマッサージしましょう。
太もも付け根マッサージ
全面の太ももの付け根は、下半身と上半身をつなぐ血流の要です。
ここには太い動脈と静脈の両方が通っていて、運動不足になるとこの部分に血液の滞留が起こるのです。
右足ならば右手で握りこぶしを作り、反対の手で押さえてグリグリと足の付け根を刺激します。
片方を1~2分マッサージして、反対側も同様にもみほぐします。
普段からの予防
前項では実際に狭い場所にいなければならなくなってからの予防法を解説しましたが、エコノミークラス症候群は、普段の生活習慣も大きく影響します。
血流の悪さや不健康な血管の状態は、さまざまな原因から起こり、エコノミー症候群になりやすい人の多くは、日常生活の中に悪い要因を抱えているものなのです。
エコノミークラス症候群の普段の生活での予防法を見てみましょう。
食生活を整える
食生活は血管の健康の基本です。
暴飲暴食はもちろんいけませんし、動物性たんぱくや甘い物の食べ過ぎなどに注意しましょう。
睡眠をしっかりとる
睡眠は精神と肉体の両方の健康のために大切なことです。
睡眠不足をしてしまうと、自律神経が不安定になり交感神経が高い状態が続くことで血管を収縮させてしまいます。
また睡眠が足りないと血液がドロドロになることでも、エコノミークラス症候群にかかりやすい状態を誘引してしまうのです。
適度な運動をする
適度な運動をすると、心臓のポンプ作用で血管壁の汚れを洗い流し血流を高めてくれます。
反対に運動不足が続くと、血管壁が汚れあらゆる血管障害の原因を作り出します。
ただし運動といってもサッカーや格闘技などのハードなものは、毛細血管に傷をつけてしまい血栓のできやすい体質になるので、ウォーキングやジョギング、またはヨガなどのソフトな運動をするようにしましょう。
ダイエットで肥満を解消する
肥満状態は血管を脂肪が圧迫し、エコノミー症候群を起こしやすくします。
また血管壁の清浄化のためにも皮下脂肪を多く蓄えている状態はよくありません。
メタボ検診などで数値に問題があった人は、ダイエットで肥満を解消することが大切です。
医療施設での予防法
飛行機のエコノミークラスに搭乗することよりも、発症数では術後の入院時にエコノミー症候群になる方が多いといいます。
医療施設では「弾性ストッキング」やゴムチューブ性のカフを使用して静脈の流れを高め、エコノミー症候群を予防します。
また、薬物を使った予防法では、低分子量ヘパリンや凝固因子阻害薬などといった治療薬を用いることもあるようです。
まとめ
エコノミークラス症候群は、いつ自分がその環境に置かれるか分からないという怖さがあります。
とくに旅行や出張で飛行機によく乗る人は注意が必要です。
ここで紹介したような疾患の知識と予防法を知っておくことで、エコノミークラス症候群を未然に防ぐことに役立てられるでしょう。