「エコノミークラス症候群」は、飛行機の狭いエコノミークラスに長時間搭乗することで起きやすい突発的な血栓症の一つです。
ただし、病名こそ飛行機に由来しますが、日常生活の中でも起きる危険性もあります。
死に至ることもめずらしくないエコノミークラス症候群を事前に防ぐために、体に現れる症状などを知っておきたいものです。
このページでは、エコノミークラス症候群の症状について詳しく解説しています。
エコノミークラス症候群とは?
エコノミークラス症候群(エコノミー症候群)は、長時間同じ姿勢を強いられる状態で起きやすい病気の俗称で、医学用語では「深部静脈血栓症」とよびます。
狭く身動きの取れない飛行機のエコノミークラスで起きやすいことで、この通称が有名になりました。
”血栓症”といえば、脳梗塞や心筋梗塞などの「動脈が詰まる」循環器疾患の方が良く知られています。
一方、静脈系の血栓症は一般の方にはあまり知られておらず、予備知識がないことで発見が遅れることもあります。
人の体の血流は、心臓から動脈で押し出し、下半身に回った血液は脚部の筋肉によって静脈を使って心臓に戻されるという構造があります。
この構造のために静脈血栓症の9割は脚の部分の血管で詰まらせてしまうのです。
エコノミークラス症候群は、血の流れが極端に滞留することで主に足の部分に血液の塊ができ、それが流出し、動脈に詰まることでさらに大きな症状を引き起こす危険性があります。
深部静脈血栓と肺塞栓
エコノミー症候群(深部静脈血栓症)は、まず足の部分にできた血液の塊が静脈を防ぎます。
そして血液の塊が何らかの刺激(動く・血液が一気に流れるなど)を受けて血管に流出し、体の中を駆け巡って「肺」に到着すると肺動脈を詰まらせます。
この状態を「肺塞栓」といい、重度の場合には心筋梗塞を上回る死亡率を持つ怖い症状となります。
エコノミークラス症候群を発症して死に至るケースでは、肺塞栓が起きているのです。
エコノミークラス症候群の症状
致死率の高いエコノミー症候群は、その症状をしっかりと熟知しておくことが大切です。
先ほども述べましたが、静脈系疾患の知識はあまり知られていないため、気づかないうちに悪化しやすいので注意が必要です。
まだ脚の部分の血流が悪くなっている段階でどんな症状が起きるのか覚えておかなくてはなりません。
代表的な症状例
エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)の代表的な症状例は次のようなものです。
- 下肢が腫れる
- 下肢が痛む
- 下肢の色調の変化
太ももの付け根から足先までが「下肢」となり、深部静脈血栓症になると膝の裏辺りに症状が出るケースが多いようです。
”色調変化”が起きる場合は、内出血をしたときのように紫色になるので、肉眼で判別することは容易です。
また、下肢に痛みや腫れなどが出る病気はいくつもありますが、深部静脈血栓症を発症した場合には「片方だけ」に変化が起きます。
こんな状態が危険
脚(下肢)にのみ症状が現れている場合には深部静脈血栓症ですが、それがさらに悪く進行すると「肺塞栓」になります。
肺塞栓は急を要する事態であり危険度は飛躍的に高くなると覚えておきましょう。
症状は以下のようになります。
- 呼吸するのが難しくなる
- 胸が痛む
- 冷や汗が出る
- 失神してしまう
- 動悸が強くなる
- せきや血痰が出る
あきらかに疾患の原因が「脚から胸へ」と移行した状態です。
症状の進行のしかた
エコノミークラス症候群は、機内では下肢に血の塊が作られ、その状態では痛みや浮腫のような軽度な症状が起こります。
そして目的地の到着して飛行機から降り、空港を歩いているときなどに一気に血流が増えることで血栓が流れ出してしまうのです。
血栓が肺の動脈にたどり着くまでには時間差があり、それは体の状態によって違います。
長い場合には数日から数週間経過してから肺動脈に行き着いて症状を起こすこともあり、それがエコノミークラス症候群だと気づかないことも少なくありません。
その間に何らかの予防をすることが大切なのですが、自覚症状があまりないために見過ごしてしまうことが多いようです。
エコノミークラス症候群になりやすい人の特徴
エコノミークラス症候群には、なりやすい人となりにくい人がいます。
循環器系の疾患ですから、血管に病的要因を持つ人は発症する可能性が高くなります。
ただし、それ以外にもエコノミー症候群になりやすい体の状態もあるので、循環器系に不安のない人も安心はできません。
血管の状態が悪い人
血管の状態が悪い人はエコノミー症候群を発症しやすくなります。
- 中高年(血管壁に老化があるため)
- 肥満傾向にある人(脂肪による血管圧迫が強いため)
- 糖尿病、高脂血症、高血圧の人(血液がドロドロで血管の状態も悪くなるため)
以上のように血流に問題のある人、一般的に「生活習慣病リスクの高い人」がエコノミークラス症候群の予備軍だといえます。
術後・骨折の人
「術後」や「骨折」をしている人は、エコノミー症候群になる可能性が高くなります。
これは手術や骨折の影響で、一時的に血管に損傷が起きていることがその理由です。
とくに骨折と血管を結びつけて考える人は少ないですから、意外な事実だと言えます。
血液の固まりやすい状態
血液の固まりやすい状態は、エコノミー症候群を引き起こす原因になります。
- 妊娠、産後、避妊用ピルを服用(ホルモンバランスの関係)
- 凝固性疾患
- 悪性腫瘍(がん・子宮筋腫など)
ホルモンバランスの変異は女性に多い原因です。
激しいスポーツや武道などをしている人
武道やラグビー、サッカーなどの筋肉を打ち付けるスポーツなどをしている人は、血管に損傷を起こすことが多く、エコノミー症候群を発症しやすくなります。
これらのスポーツをしている人は、普通の人よりも体力的・健康的にも自信を持つものですから意外な盲点だとも言えます。
エコノミークラス症候群を発症しやすい環境
エコノミークラス症候群には、発症しやすい環境もあります。
- 狭い場所で長時間同じ姿勢をとる
- 乾燥している
- 室温(気温)が低い
これらに共通するのはすべて「血流を悪化させる要因」があるということです。
狭い場所では体の身動きが取れず、イスやベッドなどで同じ場所を圧迫されて血流が悪くなります。
また、乾燥状態では血液中の水分が蒸発して脱水状態が起きやすくなり、血液の粘度が高まり固まりやすくなるのです。
室温(気温)の低さも、血管を収縮させる原因ですので、悪化要因が増えることになります。
「狭い場所」「乾燥状態」というのが、飛行機のエコノミークラスでこの疾患が起きやすい2大要因です。
機内の湿度は砂漠よりも湿度が低く、5%~15%くらいという極度の乾燥状態なのです。
入院中や術後に発症しやすい
エコノミークラス症候群は、飛行機への搭乗で起きる以外に「入院中」「手術後」に起きやすいことが分かっています。
とくに脊椎のケガや術後は、ベッドで体を固定されることが多く、ほとんど寝返りも打てない状態になります。
同じ場所が圧迫されたり、脚の筋肉の動きによって心臓に血液を送り返しづらくなることでエコノミークラス症候群が発症しやすくなるのです。
また、切開手術などをすることでもエコノミー症候群になりやすくなります。
これは、血管が損傷している可能性が高いことと、あちこちにできた手術の傷を修復するために体が血液を固めようとするという2つの要因が重なるからです。
大きな手術をするような病院では、術後に起きるエコノミー症候群に対してさまざまな対策を施しています。
まとめ
最近では震災被害に遭われた方が、車内泊をしている間にエコノミー症候群にかかり命を落とすといった事例も聞きます。
エコノミークラス症候群は、潜伏状態での兆候が判別しずらいために予防の難しい疾患なのです。
症状が明らかになってから予防策を考えるのではなく、なりやすい環境や状態を作らないという意識が大切だということを覚えておきましょう。